2016.10.22 Sat. エラー

トライ&エラーの、エラーの日だった。

朝、早起きした。6時に起きた。

昨日風呂にも入らずばったりと寝てしまったので、まずシャワーを浴びて、髪をさらさらに乾かし、さらに調子に乗って朝食をつくった。茹でた豚肉にポン酢をかけて食べ、お粥をあたためて食べたらおなかがいっぱいになった。

どうもこれがいけなかったらしい。

職場に着くと眠くて敵わず、午前中いっぱいは自席でうつらうつらして終わった。幸か不幸か、今日はみんな出張で出払うなどしていて、事務所には反りの合わない上司と私のみ。施設管理課のアルバイトのおばさんに優しく起こしてもらう。上司は起こしてくれない。起こされても怖いけど…。わたしに対して垂直、90度の位置で、充血した目をいつもギョロギョロさせている。

上司は難儀なひとだと思う。難儀なヤツには優しくしたいといつも思っている、わたし自身が難儀な人間だからだ。でも同族嫌悪という言葉もある。そして難儀なひとは面倒臭い。難儀なひと自身には余裕が無いから、お互い思いやれずどうしても上手くいかない。ただ、ここ最近は自分にすこし余裕がでてきたので、なんとなく上司との間に走る空気も以前ほどの緊張感はなくなってきたように感じる。

それでも上司は毎日「ママ〜ッ!」ってすぐにでも涙が決壊して泣き出しそうな顔をしていて、実際頼れる女性職員や優しく接してくれるバブみのある嘱託職員には明らさまに甘えた声を出し媚び始めるので、目の敵にされている部下としては腹が立つ。こっちは同族のあなたの立場を悪くしたくないとも思ってしまうから、なるべく愚痴らず、周囲には話の合わないババアしかおらず、隣の口の臭いひとと電話を共有して口臭をアルコールで拭き拭き、毎日おかまいなしにやってくる窓口応対と事務処理をしているのに、部下のフォローもせずシカトこいたりして、自分は甘えるのかよ!と。だけど、優しくしたいという気持ちもある。アンビバレントだ。

何か立場やタイミングが違えばわたしもああやってあの上司に甘えられる立場だっただろうなと思う。例えばわたしが彼の仕事の愚痴をいつもそっとふぁぼる、インターネットの知り合いだったら?出会いとか関係ってそういうものだ。

午後からは目が覚めて仕事ができた。なんとかこなして新宿へ向かったけれど、正直自分はあまり乗り気でなかった。以前コミティアへ遊びに行った時に、前々からフォローしていた男の人とすこしお茶したのだけれど、そのひとがまたコミティアで東京に遊びに来るので茶でもどうですか、と誘われて、なんとなく断れずに予定を取り付けてしまったんだった。

なんというか、PIZZA OF DEATHを聴いていそうなタイプの太り方。やわらかいタイプの太り方の男の人で、会っている間はオズオズとしていたのに、LINEでいきなり「なんでもきいてねww」みたいにタメ口をきかれてびっくりした。そういうタイプの男の人に好かれ、断って逆恨みされたパターンが何度かある。今回もそうとは言い切れないけれど、そういう予感がしてなんとなく嫌だったけれど断る言葉が思いつかなかった。

これでもだいぶ意思表示できるようになってきたものだ。「嫌です」「行きたく無い」とはっきり言わないでも、断る方法がすこしずつわかるようになってきた。ただ自分は、嘘をつくことは相手に不誠実なのではないか、という恐れと、自分がいいひとに見られたいという見栄が激しくて、やっぱりとっさに断れない時がある。

相手がわたしが指定した店とは近いけど全く別の店で待っていたらしく、待ち合わせにすれ違って元から低かったテンションが下がってしまう。わざわざURL送ったのにな…。向こうから誘ってきたし、twitterやLINEでは饒舌な雰囲気なのに、会うとなにもしゃべらないし、手が震えている。可哀想な気がして話題を振ると、いろいろ詳しく話してくれて内容はすごく面白いのだけれど、わたしの相槌をきいていないから会話がかみ合わない…。「自分は東京も、東京の音楽もよく知っている」「あいつもあいつもあいつもクソ」という話がメインで、なんかやだなーと思いながら「ほんとですかぁ〜」「しらなかったです〜」「はじめてしったぁ〜」を繰り返すキャバ嬢トークをしてしまった。そういうトークの仕方、嘘が伝わらないほど男の人だってバカじゃないとはわかってる。しばらく話して解散したけどなんだか疲れてしまって、こんな風に上から目線になってしまっている自分も嫌になる。最終的になんの会合だったのかよくわからなかったし、しっかりと適度な理由を用意して断ればよかった。

低気圧のせいなのか、喫茶店の途中から歯痛のようなシンシンとした頭痛がしていた。そういえば去年の冬はずっと後頭部に頭痛がしていた。今の職場にはいったばかりの頃だったか、好きなバンドのボーカルに掴みかかってキーボードの女の子に舞台からフロアに突き落とされてたんこぶができたあたりだ。キーボードの子とは今年の夏に和解した。彼女はそのバンドを辞めた。

コミュニケーションはトライ&エラーだ。今日はエラーの日。でもエラーのコミュニケーションもいつか和解したりするし、エラーはずっとエラーのままってわけじゃない。ネットレーベル界隈で再開したnくんだって、初めて会った高校生の時はしゃべれず、手が震えてて、わたしも当時は人と視線さえ合わせることができず、あまり仲良くはなれなかった。いまは会えばお互い仲良く話して酒も飲める。そうやって10年かかってエラーがエラーでなくなることもある。でも自分に負担のないように、断り方のスキルもあげようと思った。

断れないから昔はよく変な男の子についていっちゃったりしていた。うちに帰りたくなかったというのもある。

いまの「界隈」にきてからは大分変わったけれど、自分の人生は、本当に人様にいいように食いものにされてきた人生だ。断ったら嫌われる、人を否定する権利は自分にない、そう思ってしまう。わたしが決断したり決定したりする権利はない。そう思い続けてきた。そして、その瞬間だけでも大切にされたいからインスタントに肉体を投げ出してしまう。

なんてもったいないことをしたのかなあ、10代の自分は。でもそうやってどうにか死を選ばず生き延びた結果としていまの自分があることを自分でほめそやしてやらないと今度こそ二重に死んでしまう。ただ、そうするとついつい「今は辛くても大丈夫!」と、もう危険地帯は抜けたところから安易に苦しんでいる人に向かって爆弾を投げつける人間になってしまいがちだから、そこにも落とし穴が掘られてる。

幸せになりたい。どんどんよくなってゆきたい。そうして、幸せだと感じて、「いろいろ大変だったけれど、父と母に育てられて幸せだった」と、自分の人生と父母のことを肯定したい。ドラマのように言い放ってやりたい、全部自分の努力で過去を捻じ曲げて、幸せな結末から逆算して毒のない人生のエピソードにしてしまいたい。

過去の話はあまり交際相手にしていない。たぶん付き合う前になるべく面白おかしくは話しているけれど、付き合ってからは一緒にいることが楽しいので特に過去の暗い話をする必要が無い。まるで一度も失敗したことがないかのような顔をして、心も体もロンダリングされている感じ。「お前を幸せにします!」と言ってくれたから、ああ幸せになってみようかという気持ちになれた。交際相手の言うことはみんな芯から本当だと信じられる。それで自分を任せる気になれた。身体を投げ出さないでもわたしのことを面白がってくれて、鈍感で顔色をみたりもしないけれどポイントはちゃんと押さえてくれて、向き合ってくれる。一緒にいるだけで楽しい。夜なにもすることがなくてもしりとりして修学旅行の夜みたいに過ごせる。78円のアイスでも二人で映画をみながら食べればハーゲンダッツくらいの美味しさになる。ぼんやりしていると思っていると、さっと気がついて手助けしてくれて、当たり前だという。

いい男だなあ。みんな交際相手の爪を煎じて飲んだほうがいい。上司の飲み物に盛っておこうか。エラーだらけの人生だけれど、いまの交際相手といることは人生で一番の正しい選択だ。英語のcollectという単語がいちばんしっくりくる。