2017.02.01 Wed. 雪見だいふく

昼寝をして醒めたら、祖母が危篤だと連絡が入っていた。
祖母は92歳だ。14年ほど前からアルツハイマーで、ここ2年は言葉も表情もほぼない。骨と内臓、ハード面がかなり丈夫だったので長生きしたらしい。
わたしには祖母が祖母でなくなってからの思い出の方が多い。病気の初期は元の思考と病気の思考をいったりきたりして、いつも不安で混乱していてかわいそうだった。なまじ行動に出られるので、部屋に物を積み上げて、(妄想の)泥棒よけのバリケードを築城してみたり、自分以外はあなたもみんな全員偽物だ!と言ってみたり、周りの人間も大変だった。だからここ数年は、病状が進んだことで正直みんなホッとしていたと思う。
それなのに祖母の元へ向かう途中に思い出したのは、元気だった頃の祖母だった。
ちいさいころ、祖父母の家に預けられると、いつもインスタント味噌汁(なめこ入り)とCCレモンが出てきた。後から知ったが、祖母は料理が苦手だったのと、CCレモンはビタミンCで身体にいいと思って飲ませていたらしい。食事の後は祖父と時代劇をみて、その後にある「お江戸でござる」が楽しみだった。
そういうことを思い返したら、もうずっと覚悟はできていたはずなのに少し涙が出た。
でもこの涙も自分の心からのものでなく、何か他人事の涙のようだ。

口を開けて反応なく眠る祖母の手を握って、おばあちゃん、来たからね、と声をかけて、正直これ以上することが何もなくて困った。小さい頃、家に行く度にこの手でほっぺたをもみくちゃにされるのがマジでいやだったなと思い出す。子どもの好きなひとだった。
顔の色がこれまでとは明らかに違った。祖父の葬式のときにみた、棺に入った祖父の顔と同じ色だ。母に「お別れしなさい」と言われて一応触った祖父の額の肌はしっとりとやわらかくドライアイスでギンギンに冷たく、力を入れて触ったらズルッと骨からずれそうな感触で、雪見だいふくに似ていた。夏の葬式だった。
祖母の額は、まだ骨とくっついて血が通っている感じであたたかかった。